「ポルシェといえば丸目。996はポルシェじゃない。」 「水冷化されて魂が失われた。」 「エンジンに欠陥を抱えている。」
ポルシェの世界において、996型 911ほど「不当な評価」を受けてきたモデルはないかもしれません。空冷から水冷への大きな転換期に生まれ、コストカットの象徴と揶揄されたこのモデルは、長らく不人気車のレッテルを貼られてきました。
しかし、20代という多感な時期に、僕が最初のポルシェとして選んだのは、この996型カレラ4Sでした。
なぜ今、あえて996なのか。その魅力と、購入前に抱いていた不安、そして実際に所有して気づいた「ネオクラシック・ポルシェ」との向き合い方について、等身大の言葉で綴りたいと思います。
991.1という「正解」を前に、心が動かなかった
ポルシェ購入を検討した際、最初に候補に挙がったのは991.1型のカレラ4でした。 911として最後のNAエンジン(自然吸気)を搭載し、現代的な信頼性と豪華な内装、そして誰が見ても美しいポルシェらしいスタイリング。20代でこれに乗っていれば、間違いなく「上がり」の一台と言えるでしょう。

実際に試乗もしました。驚くほど速く、安定し、エアコンは完璧に効き、オーディオの音も素晴らしい。非の打ち所がない、100点満点のスポーツカーでした。
しかし、試乗を終えた僕の心に残ったのは「満足感」ではなく、奇妙な「物足りなさ」でした。 最新のポルシェはあまりに優秀すぎて、ドライバーが介入する余地が少ないように感じてしまったのです。洗練され尽くした操作感は、どこかデジタルなシミュレーターを操っているような感覚を抱かせました。

「もっと、車と対話したい。もっと、機械を操っている実感が欲しい。」
そう思っていた僕の頭をよぎったのが、学生時代に街で見かけ、そのワイドなリフレクターに目を奪われた996カレラ4Sの姿でした。

996カレラ4Sを選んだ、決定的な理由
1. 脳裏に焼き付いていた「リアのデザイン」
996カレラ4Sを語る上で外せないのが、ターボボディを流用したワイドなリアフェンダーと、左右のテールランプを繋ぐ一本の赤いガーニッシュ(リフレクター)です。
学生時代、夜の国道でこの後ろ姿を見た時の衝撃は今でも忘れられません。現行モデルの直線的なLEDライトとは違う、どこかアナログで重厚な存在感。空冷時代の面影を色濃く残しながらも、水冷時代の幕開けを感じさせるあの独特の佇まいに、僕は理屈抜きで惚れ込んでいました。
2. 五感を刺激する「アナログな対話」
996の運転席に座ると、5連の独立したメーターが並び、物理的なスイッチが整然と配置されています。

いざ走り出すと、ステアリングからは路面のざらつきがダイレクトに伝わり、エンジン音は遮音材を突き抜けて背中から響いてきます。アクセルを踏めば踏んだ分だけ、ステアリングを回せば回した分だけ、車が「今、こう動いているよ」と対話してくる。
この「アナログな感覚」こそが、僕がスポーツカーに求めていた本質でした。991が「魔法の絨毯」なら、996は「自分の一部となる機械」だったのです。
懸念していた「魔のM96エンジン」と、どう向き合うか
もちろん、996を選ぶにあたって不安がなかったわけではありません。ネットを叩けば、M96型エンジン特有のネガティブな情報が溢れています。

- IMS(インターミディエイトシャフト)問題: ベアリングの破損が即エンジンブローにつながる。
- ボアスコーリング: シリンダー壁面に傷が入り、異音やオイル消費を招く。
「20代でこんな爆弾を抱えた車を買って大丈夫なのか?」「修理代で人生が詰むのではないか?」 そんな恐怖心から、何度も購入を躊躇しました。
しかし、調べを進めるうちに考えが変わりました。 現在流通している個体の多くは、すでに対策品のベアリングに交換されていたり、定期的なオイル管理によって健康状態が維持されているものも多いこと。そして何より、「いつ起こるか分からない故障を恐れて、本当に乗りたい車を諦めることこそが最大のリスクだ」という結論に至ったのです。
トラブルが起きたら、その時。それも含めてポルシェという文化を楽しむ覚悟を決めました。
実際に所有して分かった「維持のしやすさ」と「DIYの楽しさ」
納車後、僕を待っていたのは意外な事実でした。 「古いポルシェ=パーツがなくて維持が大変」というイメージを持っていましたが、実際は全く逆だったのです。
純正パーツの供給体制が凄い
ポルシェは「走る文化遺産」を自負しているメーカーです。製造から20年以上経った996であっても、ディーラーに行けばほとんどの純正パーツが手に入ります。この安心感は、同年代の国産スポーツカーでは味わえないものです。
海外通販とOEMパーツの活用
さらに、20代の財布に優しいのが個人輸入の存在です。 アメリカの「Pelican Parts」や欧州のショップを利用すれば、純正同等のクオリティを持つOEMパーツ(ボッシュやビルシュタインなど)を、国内定価の半額以下で入手できることも珍しくありません。

自分で手を動かす喜び
996は、まだ現代の車ほど複雑化しすぎていません。 基本的なオイル交換、フィルター類の交換、内装の補修など、サービスマニュアルを片手に自分で整備できる範囲が意外と広いのです。
週末、ガレージで車の下に潜り、自分の手でポルシェをリフレッシュしていく。単なる「移動手段」や「ステータス」としてではなく、「自分の道具を自分で手入れする」というプロセスそのものが、僕にとってかけがえのない趣味の時間になりました。
不人気車という「最高の贅沢」
「996は不人気だから」という理由は、裏を返せば、「ポルシェの本質を、最も純粋なコストパフォーマンスで味わえる」ということでもあります。

もし、あなたが「20代でポルシェなんて早い」「壊れるのが怖い」と足踏みしているなら、伝えたいことがあります。 最新のポルシェはいつでもお金を出せば買えます。しかし、少しずつ古くなっていく996を、自分の手で維持し、アナログな操作感を楽しみながら走らせる経験は、今しかできない挑戦かもしれません。
不人気と言われたヘッドライトも、今では僕にとって「この時代にしかない個性」として愛おしく感じます。
996カレラ4Sは、単なる車ではありません。僕に「挑戦することの楽しさ」と「機械と対話する喜び」を教えてくれる、最高の師匠です。
これからも、この少し手のかかる、けれど最高にエキサイティングな相棒との日常を、このブログで綴っていこうと思います。